スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

貴石の契約者10話

すいません。8話のところが9話になっていて8話飛ばしていました…




いくつもの機械が並ぶ薄暗い部屋。
機械はゴウン、ゴウンと音をたて、虹色に変化する不思議な光を放っていた。
その中心に、様々な装置が取り付けられた寝台があった。
寝台のそばの機械から、ピー、ピーと規則的な音が聞こえる。
どうやら延命装置のようである。
そこに、一人の女性が寝ていた。
シアンの色をした肩まである髪のその女性はまだ若い。だが彼女の命が失われようとしているのは延命装置に寝ているという事実がなくとも明白だった。
「ごめん…あたしはもう駄目みたい…」
女性は側で看病していた人物に誤る。
顔を仮面で隠した白いローブ姿のその人物は、
『あなたがわたしを置いていくのか…』
くぐもった声で女性に責めるように言う。
『ずっとわたしを守ってくれると約束してくれたあなたが』
「大丈夫…」
女性はフッと笑う。
「……この魂は化け物に食われ消える。でも、その生れ落ちる怪物を…アンタを守る下部として使って欲しい」
『………そんなこと』
仮面の人物が視線を外した時、女性が仮面に触れた。
「せめて最後に、アンタの顔が見たかったな…」
『そんな事は不可能です。この仮面の下はもうあなたが知るわたしではないのだから』
「はははっ。なら最後に、お願いがあるんだけど、いいかな?」
『なんです?』
伸ばされた手を握る仮面の人物。
「せめて…「さやかちゃん」って、呼んでくれないかな?昔みたいに」
『はい……うん。さやかちゃん』
「……ありがとう、まどか」
その言葉を最後に、握られていた手はすり抜け、力なく倒れた。

「ふんぎゃ!」
ふと、足元から聞こえた奇妙な音に足を止める。
『………』
ついでに言うと、妙な感触が足の裏からする。
例えて言うなら人間を踏みつけたらこんな声を上げ、こんな感触が足の裏から感じるのではないか?と言った感じか。
「ふんぎゃ!ふんぎゃ!ぎゃひい!」
面白いので何回か体重をかけると、
「いい加減にしろ!!」
「ソレ」は自分を突き飛ばしながら起き上がった。
「何回踏みつけているのよ!普通足元見るでしょう!?というか、人を踏んでいると気づきなさいよ!!」
『………』
「ソレ」は見覚えのある人間の姿をし、人の言葉でそう捲くし立てる。
『この様な場所で人が倒れているなどありえぬものでな』
とそう言うと、少女をしばし見つめて、
『物の怪か…』
ぽつりと呟く。
「誰が物の怪だ!こんなかわいい女の子捕まえて!!」
再びわめく少女。
「だいたい、アンタの方がよっぽど物の怪でしょうが!なんなのよ、そんな不気味な兜なんかつけて。三つ目の骸骨みたいよ!!」
『よく言われる』
「じゃあ被るな!!しかもマントで全身隠れているからまるで幽霊みたいだし!というか、なんでリボンついているのよ!」
中々面白い反応をするその少女はしばらくワーワーわめいていると、息が切れたのか途中でゼーゼー言う。
「というか、ここどこよ?」
どうやら自らの意思でここに来たわけではないようだな。
ふむ、と顎に手をやると、私はこの場所への説明を始める。
『ここは人間の精神の溜まり場。呪いや穢れが集うところ。高次元物質界と人の住む次元の狭間。まあ、詳しくは我々も知らん』
「なにそれ?」
ジト眼で私を見つめる少女。
『わかっているのはここが魔女の結界と同じ次元というところか。見ろ』
そう言っていくつも蠢く影を指す。
「あれ…使い魔!?」
『魔女に関する知識はあるようだな。魔法少女に魔女が倒され、結界が崩壊した際に崩壊に巻き込まれずに難を逃れた使い魔どもだ。皆ここで流れてくる人間の恨みや呪いを食らって魔女になって再び元の世界に戻る』
「ちょっと!それって不味くない!?」
『不味い?何がだ?』
「だって、魔女になってまたあたし達の世界に戻るんでしょ?」
『確かにそうだが…だが、奴らが呪いを食うおかげで「あいつら」が人間の世界に行かぬようになっているのもまた事実』
「あいつら?」
『ほう、運が良かったな。来たぞ』
「な…なにアレ…?」
私が指差すところは丁度連中が使い魔を食っているところだった。
『高次元物質界の生物だ。この世界を歩いているとごくまれに出てくる』
小物だな。だが、肩慣らしには丁度よい。
そう思うと私は剣を複数生成し、二本だけ持って、それで残りを「奴」の方向に弾く。
金属音が聞こえたのか、こちらに反応する「奴」。
だが「奴」が行動するよりも早く、剣を一本奴と私の中間に投げて、突き立てる。
それを足場に先に弾いた剣のところまで跳びあがり、それらのうち三分の一を「奴」の周囲に、もう三分の一を「奴」自身に弾く。
そして残り三分の一を剣が刺さって苦しむ「奴」の周囲に突き刺した剣に向かって弾く。
弾かれた剣は全て刺さっていた剣に当たって跳ね返り、「奴」に突き刺さる。
最後は落下と同時に「奴」の首をはねて終わる。
この程度の相手なら一本で十分だが、「コレ」はたまにやらないとコントロールが鈍るからな。
事実、2、3本、刃ではなく柄の部分が当たっていた。
と、呆気に取られている少女に気づく。
『まだいたのか』
「いたわよ。というか、アンタ強いのね…」
そう言うと少女はしばらく考え込む。
『……?』
疑問に思って見つめていると、
「ねえ、あたしに剣を教えてよ」
『なに?』
やはり魔法少女だったか。
”剣を”と言うところを見るとエレメントは剣か…。
『生憎と、人に物を教えれるようなのではないのでな』
「お願い!あたしは強くなりたいの!!」
断ろうとしたが、なおも少女は食い下がる。
『………』
頭を下げるその必死さになにか感じるものがあったので、問い掛けてみる。
『何故そこまで力を求める?』
「守りたい人がいる…あたしの事を誰よりも心配してくれたのに、酷い事言って、傷つけて…」
後半、目を伏せながら呟くが、すぐに真っ直ぐにこちらを見つめる。
「だけど、もしあの子が許してくれるのなら、あたしはあの子を守りたい。傷つけてしまった分まで!」
『………』
ーーあなたがわたしを置いていくのか…
ーーずっとわたしを守ってくれると約束してくれたあなたが
自分のものでない記憶をつい思い出してしまい、フッと笑う。
『いいだろう小娘。ただしあまり期待はするなよ?』
「美樹さやか」
『ん?』
「それがあたしの名前よ」
うなずいた事が嬉しいのか、笑顔でそう言う少女。
だが、美樹さやかとは…なるほど、それならば見覚えがあるはずだ。
「そういえば、アンタの名前は?」
『私か?私の名はーー』

 魔法少女まどか・かずみ☆マギカ - 貴石の契約者・まどか編

  第10話 独りぼっちは、寂しいもんな

突如さやかのソウルジェムが砕け、起こった激しい衝撃波。
それに飛ばされないようにしていると、いつの間にか結界が出来上がり、目の前に魔女がいた。
と、さやかの身体が落ちる。
「何なんだよ、テメェ一体何なんだ!?さやかに何をしやがった!?」
それを慌てて抱きとめた杏子は、魔女に向かってそう叫ぶ。
魔女はそれに答えるように、無数の車輪を杏子に飛ばす。
「危ないと叫ぶしかないじゃないか!」
『HENSHIN』
さやかを抱えて動けない杏子の前に、九尾の鎧をまとったリョウが神剣で車輪を弾く。
「お前…それが例の鎧って奴か」
「YES!なんか久々な気がするが…そんな事より、どうするんだ!俺、魔女を倒せないって設定じゃないんですけど!!」
「設定言うな!……さやかを頼む。あたしが戦う」
『でも出来るコンか?アレってどう考えても…』
「馬鹿を言うな!そんなわけ…」
九尾の言葉に叫ぶリョウ。
と、そこへ。
「下がって」
暁美ほむらが現れる。
同時に魔女の前で爆発が起こる。
「掴まって」
彼女はそう言うと、杏子とリョウに手を伸ばす。
「何を?」
「いいから」
そう言って彼女が二人を掴んだと同時に、彼女の腕の盾が何か動いた。と思ったら、突然、
「こいつは…」
「な、なんじゃこりゃあ!?」
『これは、時間止まっている!?』
「私から手を離したら、あなた達の時間も止まってしまう。気をつけて」
「どうなってるんだよ、あの魔女は何なんだよ?」
「かつて美樹さやかだった者よ。貴女も、見届けたんでしょう?」
杏子の言葉にそう答えるほむら。
「ーーっ!」
その言葉に、リョウの顔がゆがむ。
「逃げるのか?」
「嫌ならその余計な荷物を捨てて。今すぐあの魔女を殺しましょ。出来る?」
「ふざけるな」
「今の貴女は足手まといにしかならない。一旦退くわ」
そして三人は結界から抜け出した。

線路沿いを歩くまどかとユウは、偶然ほむらたちと出くわした。
「さやかちゃん!?さやかちゃん、どうしたの?」
杏子が抱えるさやかに駆け寄るまどか。
「ね、ソウルジェムは?さやかちゃんはどうしたの!?」
「彼女のソウルジェムは、グリーフシードに変化した後、魔女を生んで消滅したわ」
「なっ!?」
「え…」
ほむらの言葉に驚愕するユウと、呆然となるまどか。
「嘘…だよね」
「事実よ。それがソウルジェムの、最後の秘密」
そう言うと、まどかに自身の左腕のソウルジェムを見せるほむら。
「この宝石が濁りきって黒く染まる時、私達はグリーフシードになり、魔女として生まれ変わる。それが、魔法少女になった者の、逃れられない運命」
「嘘よ…。嘘よね、ねぇ」
信じられないとばかりに呟くまどか。
ユウも同じ気持ちだったが、杏子とリョウと九尾の様子から、それが本当の事だとわかってしまった。
「そんな…どうして…?さやかちゃん、魔女から人を守りたいって、正義の味方になりたいって、そう思って魔法少女になったんだよ?なのに…」
「その祈りに見合うだけの呪いを、背負い込んだまでのこと。あの子は誰かを救った分だけ、これからは誰かを呪いながら生きていく」
と、淡々と語るほむらの胸倉を杏子が掴んだ。
「テメェは…。何様のつもりだ。事情通ですって自慢したいのか?何でそう得意げに喋ってられるんだ。コイツはさやかの…。さやかの親友なんだぞ」
「今度こそ理解できたわね。貴女が憧れていたものの正体が、どういうものか」
だがほむらは特に気にした様子もなくまどかにそう言うと、自分の胸倉を掴んでいる杏子の方に視線を移す。
「わざわざ死体を持って来た以上、扱いには気をつけて。迂闊な場所に置き去りにすると、後々厄介な事になるわよ」
「テメェ…それでも人間かっ!?」
信じられないほど冷淡なほむらの言葉に怒りをあらわにする杏子。
「もちろん違うわ。貴女もね」
そんな彼女に、ほむらは静かに言った。
「………!」
その光景を静かに見ていた九尾が、バッと振り向く。
『キュゥべえ!』
『やあ、話があるんだまどか』
「てめえ、よくもぬけぬけと!」
「生きて…いたのか!?」
怒りの表情で睨むリョウの後ろで驚愕の表情をするユウ。
「ほむらちゃんが言ってたこと、本当なの?」
そんな男たちと違って、まどかは静かに語りかける。
『訂正するほど間違ってはいないね』
いつもと変わらぬ口調に杏子とリョウから殺気が出るが、ユウが二人を制した。
「じゃあ、あなたはみんなを魔女にするために、魔法少女に?」
『勘違いしないで欲しいんだが、ボクらは何も、人類に対して悪意を持っている訳じゃない』
「悪意がないだと!?」
キュゥべえの言葉に呻くリョウ。
『全ては、この宇宙の寿命を伸ばすためなんだ』
『宇宙コンか?』
首を傾げる九尾。
『君たちはエントロピーっていう言葉を知ってるかい?』
「エンドルフ?」
『それは怨みの戦騎コン』
リョウの間違いを正す九尾。
『エントロピーとは、簡単に言うと焚き火で得られる熱エネルギーは、木を育てる労力と釣り合わないという事コンよ』
『その通り。エネルギーは形を変換する毎にロスが生じる。宇宙全体のエネルギーは、目減りしていく一方なんだ。だからボクたちは、熱力学の法則に縛られないエネルギーを探し求めて来た。そうして見つけたのが、魔法少女の魔力だよ』
「どういう意味だ?」
「奴らの文明は、知的生命体の感情を、エネルギーに変換するテクノロジーを発明した。ところが皮肉にも、連中には感情というものがなかったのよ」
眉をひそめる杏子に答えるほむら。
『その通り。だから、ボクたちはこの宇宙の様々な異種族を調査し、君たち人類を見出したんだ』
ぴょこん。とキュゥべえの尻尾が動く。
『人類の個体数と繁殖力を鑑みれば、一人の人間が生み出す感情エネルギーは、その個体が誕生し、成長するまでに要したエネルギーを凌駕する。君たちの魂は、エントロピーを覆す、エネルギー源たりうるんだよ。とりわけ最も効率がいいのは、第二次性徴期の少女の、希望と絶望の相転移だ。ソウルジェムになった君たちの魂は、燃え尽きてグリーフシードへと変わるその瞬間に、膨大なエネルギーを発生させる。それを回収するのが、僕たち、インキュベーターの役割だ」
「ふざけんな!あたしたちは消耗品だってか?てめえらのために…死ねって言うのか!?」
『君たち人類だって、いずれはこの星を離れるだろう。その時になって、枯れ果てた宇宙を引き渡されても困るよね?長い目で見れば、これは君たちにとっても、得になる取引のはずだよ?』
杏子の言葉にそう答えるキュゥべえ。
「バカ言わないで。そんなわけのわからない理由で、マミさんが死んで、さやかちゃんがあんな目に遭って。あんまりだよ…ひど過ぎるよ」
『ボクたちはあくまで君たちの合意を前提に契約しているんだよ?それだけでも充分に良心的なはずなんだけど』
「みんな騙されてただけじゃないっ!!」
『騙すという行為自体、ボクには理解できない。認識の相違から生じた判断ミスを後悔する時、何故か人間は、他者を憎悪するんだよね』
『コン…』
このキュゥべえの言葉に、九尾は彼とは理解し合えない存在なのだとわかった。
「あなたの言ってること、ついていけない。全然納得できない」
『君たち人類の価値基準こそ、ボクには理解に苦しむなあ』
まどかの言葉に逆に首を捻るキュゥべえ。
『今現在でおよそ69億人、しかも、4秒に10人のペースで増え続けている君たちが、どうして単一個体の生き死ににそこまで大騒ぎするんだい?』
「そんな風に思ってるなら、やっぱりあなた、私たちの敵なんだね」
『これでも弁解に来たつもりだったんだよ?』
「どこがだ」
吐き捨てるように言うリョウ。
『君たちの犠牲が、どれだけ素晴らしい物をもたらすか、理解して貰いたかったんだが、どうやら無理みたいだね』
「当たり前でしょ?」
『まどか。いつか君は、最高の魔法少女になり、そして最悪の魔女になるだろう。その時ボクらは、かつて無い程大量のエネルギーを手に入れるはずだ。この宇宙のために死んでくれる気になったら、いつでも声をかけて。待ってるからね』
勝手な事を言うと、キュゥべえはどこに立ち去っていった。
「あ、待ちやがれ!」
「おい、リョウ。追いかけてどうするんだよ?言っとくが、殺しても無駄だぞ。暁美の奴が蜂の巣にしたのを俺は見た」
ユウの言葉になにやっているんだよ。という目でほむらを見る杏子。
「………それでも、一発ぶん殴らないと気が済まない」
「……一理あるな」
リョウの言葉にうなずくユウ。
「と、言うわけで俺は行く!」
と、走っていってしまうリョウ。
「あ、おい。……たく、悪い杏子。鹿目の奴を家まで送ってやっていってくれ。俺はあのバカを追う」
「ああ」
ユウの言葉にうなずくと杏子。
『あ、待つコン。コンも行くコンよ!』

「あのやろう…どこ行きやがった!」
工場地帯まで走ってきたリョウはそう言いながらキョロキョロと辺りを見渡す。
「おま…ぜーはーぜ-はーはええよ…」
「ん?どうしたマイブラザー。いつぞやの予告の転校生みたいになっているぞ」
「メタ発言すんな」
息を整えたユウはそうツッコムと、
「こんなところにキュゥべえがいるとは思えないけど?」
と言った。
「俺の勘がここだと告げる!」
「勘かよ」
とユウはジト眼で呟く。
「なあ、美樹の事だけど…」
「おお、そうだった。おい、九尾。お前のなんか妖怪パワーで元に戻せないのか?」
『コーン。それはわからないコン。でも見たところ魂が消滅しているから…』
九尾の治療能力でも死者は生き返らない。
『でも、アンタ達がさやかんを助けたいと思うのなら、コンは出来る限り協力するコンよ』
「おお、ありがてえじゃねえか」
『コンはいい妖怪コンよ』
と、九尾が言ったその時だった。
「あ、いた。キュゥべえだ」
ユウが工場に向かって歩くキュゥべえの姿を見つけた。
「インキュ野郎の奴、こんな工場に一体何の用だ?」
『ここから入れるみたいコンよ』
「お。本当だ」
「入るのかよ」
通風孔のような場所から進入するユウとリョウと九尾。
「なんだ、ここは?」
中に入ったユウとリョウはまるでSFの世界に迷い込んだ気分になった。
『まるでSF映画に出てくる宇宙船の中みたいコンね』
「そーいえば。あのインキュ野郎って、宇宙生物なんだよな。…まさかここが奴の本拠地!?」
「いや、それは流石になくね?」
と、会話していると、
「あ、いた」
キュゥべえを発見した。
こっそりと様子を見てみると、通路をとことこ歩いていたかと思えば扉を開けて中を覗き込んだりしている。
「なんか、ここを探っているみたいだな…」
とユウが言った時、
『痛い!』
「あ、すまん」
リョウが九尾の尻尾を踏んでしまった。
と、九尾の声が聞こえたのか、バッとキュゥべえが振り向いた。
その時、ユウ、リョウ、九尾の本能が告げる。あれはヤバイ!と。
ゆっくりと自分達に近づくあれはキュゥべえなどではない、もっと別の…ともかく危険なものだと。
もし見つかったら、「死ぬ」。
そう確信させる「なにか」が、あの小さな身体から発せられる。
(ヤバイヤバイヤバイ!)
(逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ!)
『早く逃げるコンよ!』
リョウの肩に乗って九尾がそう言うが、ユウとリョウはキュゥべえの姿をした「なにか」から発せられるプレッシャーに身体が動かない。
ついにキュゥべえの影が曲がり角から見えた。と思った時、後ろから伸びた腕がユウとリョウの口を押さえた。

『そうまでして死体の鮮度を保って、一体どうするつもりだい?』
杏子が寝泊りするホテルの一室。
まどかを送り届けた後、さやかの死体を運び込み、魔法で防腐処理を行なっていた杏子にキュゥべえが声をかけた。
「コイツのソウルジェムを取り戻す方法は?」
怒りを抑え、静かに問う杏子。
『ボクの知る限りでは、無いね』
「そいつは…、お前の知らないこともあるって意味か?」
キュゥべえの答えになにか思うところがあったのか、杏子はそう聞いた。
『魔法少女は条理を覆す存在だ。君たちがどれ程の不条理を成し遂げたとしても、驚くには値しない』
「できるんだな?」
『前例はないね。だからボクにも方法は分からない。生憎だが、助言のしようがないよ』
「いらねぇよ。誰が…!」
今までとなんら変わらない調子のキュゥべえにイラついた杏子はそう言うと、食料の置いてある場所にドカッと座り、
「テメェの手助けなんか、借りるもんか」
そう言いながらハンバーガーをほうばった。

「「どわあああ!」」
いきなり後ろから口を塞ぐようにつかまれ、しばらく引きずられたユウとリョウは放り投げて尻餅をつく。
『コン!』
リョウの頭に九尾が落ちる。
「いてて…」
「う~ん…ここは?」
リョウが周囲を見回すと、そこは妙に広い空間だった。
いまはなにも置いていないが、どうやら倉庫の様である。
天井には巨大なアーム型のクレーンもある。
と、自分たちの目の前に顔を白いフードで隠したと白いローブ姿の人物がいる事に気づく。
「いてて…」
「お、アンタが「アレ」から助けてくれたのか?」
声をかけるリョウ。
「勘違いするな。ただアイツにここを知られたくなかっただけだ」
と、リョウたちに背を向けたまま答える白いローブの人物。
「あれは一体なんだったんだ?見た目はキュゥべえみたいだったけど…」
「大いなる運命と生命の救済神の守護者の一人だ。時々インキュベーターのボディを使って世界を覗き見ている」
ユウの呟きに答えながら振り向いてその人物は「ん?」と唸ると、
「お前…男なのにアイツが見えるのか?」
リョウにずいっと顔を近づけながらそう言う。
「俺も男だよ!」
「なに?……そうは見え…いや、言われてみればその格好は見滝原中の男子服…というか、貴様どこかで見た覚えが…」
リョウにだけ言ったことに気づいたユウの言葉に驚いた様子の白ローブの人物。
「キュゥべえや魔女が見えるのはこの眼鏡のおかげだ」
『コンの作品コン』
「ほう…」
九尾の言葉に興味深そうに呟く白ローブ。
「そういえばヅラの奴が妙の狐を見つけたとかで騒いでいたな。ちょうどいい。どの道ここに入った以上生かして返すつもりはなかったのだ」
そう言うとニヤリと笑う白ローブ。
「「へ?」」
ユウとリョウがそう言った時、
ーーヒュン。
「「どわあ!」」
白ローブが二人に向かって長剣で斬り掛かってきた。
「危ないじゃないかと抗議するしかないじゃないか!!」
「当然だ。安全に命を奪う方法など聞いたことがない」
白ローブはそう言うと、
「だが意外と素早くて面倒だな」
指をパチンと鳴らす。
すると周囲からカプセル型の機械が複数飛んできた。
「あれはジェイル・スカリエッティが造った高エネルギー結晶型ロストロギア・レリックを回収するために造った半自立型機械、通称ガジェットドローンのⅠ型!!」
「お前覚えていたのかよ!」
以前と同じく九尾が言った事を一字一句間違えずに言ったリョウに叫ぶユウ。
「だが、まあいい。今はむしょうに暴れたい気分なんだよ!」
そう言うと九尾の頭を掴むリョウ。
「変身!」
『HENSHIN!』
鎧を身にまとい、ガジェットに立ち向かうリョウ。
「ふん、バカめ。貴様らその鉄屑相手にすら苦戦する程度だとは知っている」
と白ローブが馬鹿にした口調で言うその前で、リョウはガジェットを一刀両断する。
「なに!?」
「言ったろ。今の俺はむしょうに暴れたい気持ちだってな!」
そう叫びながらリョウはガジェットのレーザーやコードを剣で斬ったり弾いたりしながら次々と破壊していく。
このままでは不味いとガジェットのAIが判断したのか、残り数機のガジェットはリョウの剣が届かない高さまで浮かび上がる。
「甘い!いまの俺にそんな小細工は通用しねえ!」
と、リョウがそう言うと彼の持つ剣が光輝く。
「うおりゃああ!」
そして気合と共に剣を振ると、光はそのまま斬撃となってガジェットを全て斬り裂き、破壊した。
「うそん」
呆気に取られるユウ。
白ローブの人物も似たようなものだった。
「次はてめえだ!」
その隙に斬り掛かるリョウ。
だが、すぐに避けられたため、フードを弾いただけに終わった。
「くそ!浅かったか……って、え?」
悔しげに言うリョウだったが、フードの下から出てきた顔に驚愕する。
「お、女!?」
そう、白ローブは目つきこそ鋭いものの、銀色の髪をした美人の分類に出来る17,8くらいの女だった。
「ふん。貴様を甘く見ていたようだ」
だが、女の方は気にした様子もなく変わらぬ口調でそう言う。
「ならば、俺も少しばかりやる気を見せるとしよう」
そう言うと白ローブの人物はバイクのハンドル部分に良く似たものを取り出す。
「え、アクセルドライバー?」
「そんなアホな…」
相方の言葉にそう言うユウだったが、リョウの言葉を肯定するように白ローブの少女がハンドルのようなものを腰に当てると、ベルトが伸びて装着された。
『BICYCLE(バイシクル)!』
さらに彼女が取り出したUSBメモリの様なものそんな音声が流れる。
「変…身!」
白ローブの少女はそう言うと、メモリをハンドルのような…否、ドライバーに差し込んだ。
『BICYCLE!』
再び音声が流れると、少女の姿はバイクを模した黒い装甲姿へと変化した。
「「マジでアクセルかよ!!」」
『アンタは照井竜コンか!?』
「俺に…質問をするな」
「うわ、マジだこいつ!」
ユウの言葉を合図にリ、先ほどから持っていた剣でョウに斬りかかる少女。
「どわっと!!……なんつう馬鹿力…」
慌てて受け止めるが、パワー負けする。
「ええい!力で押すだけが能じゃねえ!」
だが、わざと力に押される事で相手の体制を崩す。
「おらあ!」
バランスを崩した相手の背中を斬りつけるリョウ。
「ぐっ!」
敵の装甲から火花が飛び散る。
「舐めるな!」
しかし相手は距離を取ると、剣を腰に引っ掛け、ドライバーのハンドル部分に手を掛ける。
すると彼女の両肩の部分が動き、キャノン砲のようになる。
「って、なんでここでマグネットフォーゼ!?」
慌てて走るリョウ。
その後を、放たれた砲弾による爆発が起きる。
「『どわわわ!』」
走るリョウ。
追う爆発。
「ふはははは!」
そして高笑いをあげながら撃ちまくる相手。
「ひえええ!!」
近くにあった階段を登るリョウ。その背後で砲弾が命中した事で、階段が粉砕される。
「ふはははは!逃げられると思っているのか!」
(アイツ、自分の工場壊しているけどいいんだろうか?)
ふと楽しげな相手の姿にそんな事を思うユウだった。
階段を登りきったリョウは通路を走る。
目指すはこの場所から出れるドア。
とりあえず、砲弾が飛んでこない場所に逃げるつもりらしい。
「やらせるか!」
それに気づいた相手はリョウの前の通路が破壊する。
「うわあ!道が壊された!!」
「ふははは!死ねえ!!」
急停止したリョウに向かって撃つ相手。
前も後ろも破壊されているためリョウには逃げ場がない。
「某ちょび髭配管工事ばりのジャーンプ!!」
しかしリョウは近くの作業用クレーンに飛び移ろうとジャンプする。
(いや、アレ微妙に無理だろ)
ユウの冷静に思った通り、リョウのジャンプ力では微妙に届かなかった。
だが背後で起きた砲弾による爆発による爆風がその微妙な距離を埋めた。
「どわっと!なんとか成功!」
ビシッとクレーンにしがみつくリョウ。
『………で、この後どうするつもりコンか?』
そんな彼に、そう問う九尾。
「え?」
リョウの現在地、作業用クレーン(下からかなり高い)。
他に移動できる場所なし=次の砲撃を避けれない。
「ウソダドンドコドーン!!」
「ふははは!馬鹿めが!」
リョウに向かって相手はそう言うと、リョウに狙いを定めてバイクのブレーキ型の引き金を引く。
だが、カチンと音が鳴るだけで、なにも起こらない。
「む?」
カチン。カチン。カチン。
何度引き金を引いても砲弾は発射されない。
「しまった!弾切れか!?」
「ええーー!?」
あまりの展開に叫ぶユウ。
「へへん。調子に乗るからだ、バーカ」
「なんだと!?ムシケラ風情がこの俺を馬鹿にするのか!?」
「バーカ、バーカ」
「黙れ!馬鹿が!」
「バーカ、バーカ」
「馬鹿というほうが馬鹿だ。バーカ!」
「残念だが最初に馬鹿呼ばわりしたのはお前だ!バーカ。嘘だと思うなら15行ほど上を見てみろ!!」
「15行言うな」
そう言いながら、こいつら似たもの同士かも。そんな事を思うユウであった。
「馬鹿と言った回数は貴様の方が多いだろうが!!ええい!そこから引きずり下ろしてやる!」
そう言うと、クレーンのコンソールに向かって駆け出そうとする相手。
だが、撃ちまくった砲弾の薬きょうに足を取られてすっころんでしまう。
なにやっているんだろうなあ…。そう思いながら相手が向かおうとしたコンソールを操作してリョウを下ろすユウ。
「サンクス!よし、女をいたぶるのは趣味じゃねえが、そうも言っていられねえ!」
そう言うと、剣を構え、相手に向かって駆け出すリョウ。
「図に乗るなよ!ムシケラ風情が!!」
ようやく起き上がった相手も、剣を構えて駆け出す。
「「うおおおおおおおお、はああ!!」」
そしてお互い、すれ違い様に剣を振るった。
「………」
「………」
互いを背にして、動きを止める両者。
(……こういう場合、先に倒れた方が勝つんだけどなあ)
一瞬過ぎて、どちらが勝ったのかわからないユウはそんな事を思う。
と、
「やられた~」
リョウが倒れた。
「馬鹿な…」
相手も倒れた。
「え?この場合どうなんの?」
「根性で立つしかないじゃないか!」
「舐めるな!」
ユウの疑問の後に起き上がる両者。
だが、
「むっ!?」
突然相手のドライバーから電気が流れたと思ったら、爆発し、変身が解ける。
「ぐを!?」
パキン。ドライバーから落ちたメモリが、地面に落ちた衝撃で砕ける。
「ぐっ!……まだ未完成だというのに、無理をしすぎたか…」
「どうやら、俺達の勝ちのようだな」
肩に剣を乗せたリョウがそう言う。
そのそばに寄るユウ。
「ぐっ……おのれ!!」
と、相手が悔しげに言った時だった。
ズオオオ!と音を立てて、黒い、なにかがユウとリョウに襲い掛かる。
「うわ!」
「なんだ!?」
黒いなにかを剣で防ぎ、慌ててユウを抱きかかえて逃げるリョウ。
「……?」
剣から妙な感触があった気がしたが、構わず距離を取るリョウ。
「大丈夫でありますか?ギーゼラ」
そう言って、ギーゼラと呼ばれた今まで相手していた白ローブの少女とは対照的な、影の様に黒いフードで顔を隠した少女がそう言う。
「……?」
ふと、ユウはその黒い少女の声をどこかで聞いた気がした。
とてもよく知っている声…。
「……エルザか。余計な事を」
黒い少女にそう言う白ローブの少女。
「くっ、新手か!」
そう言って剣を構えるリョウだが、
「あれ?」
妙に剣が軽い気がしてよく見てみる。
「って、剣が!!」
なんと、剣の先端がなかった。
「え、折れた?」
『そんな馬鹿な、これは神剣コンよ!?そう簡単に折れるわけ…』
驚愕する九尾。
「あ、これですか?」
と、黒い少女が剣の先端を放り投げる。
「私の”影”は切れ味がいいんです」
「『そんなバナナ…』」
にっこり微笑む少女の言葉にそんな事を言うリョウと九尾。
(しかし、この少女。白い方なんかより数倍禍々しいコン…)
九尾がそう思っていると、ユウたちの周囲を先ほどの黒いものが現れた。
「囲まれた!?」
「エルザ…こいつは俺が…」
「ギーゼラ、無理はいけないのでありますよ」
そう白い少女に言うと、
「ご安心をしてくださいまし。私の影に呑まれても苦しみはありません。むしろ、どのような不幸からも解放されます。見てください」
黒い少女がそう言うと、黒いものの中に顔が出てくる。
「彼らは私の”救済”を受けた方々です。幸せそうでしょう?苦しむ事も、悲しむ事もない。完全なる救済…」
『ふざけるんじゃないコン!これのどこが救済コン!』
「理解していただく必要はありません。どの道、あなた方は救済される運命」
少女の言葉に黒い影が狭まる。
『……仕方ないコン』
九尾はそう言うと元の姿に戻る。
『すまんコン。さやかんを助ける協力をする約束だったコンけど、無理みたいコン』
「え?どういう…」
ユウが聞き返そうとしたと時、
『コンれがコンの本気コンよ!!』
九尾の身体が光始める。
「なんだ!?」
同時に、ユウとリョウの周りに光の文字が浮ぶ。
『アンタたちを転送するコン。でも、このままじゃ呑み込まれる方が早いコン。だからコンが時間を稼ぐコン!』
そう言うと、九尾は光ながら影の周りを走りまくる。
「え、九尾?」
「ちょっと待て。なんだこの急展開!?」
『おひょひょひょ。必ずさやかんを助けるコンよーー!』
そう言ってサムズアップする九尾。
「「九尾ーーーー!!」」
叫ぶユウとリョウだが、気がつくと、全く別の場所にいた。
「なんだ…妙な魔力の気配がすると思って来てみれば……」
そこに杏子が現れた。
「佐倉杏子…」
「丁度いい。アンタたちに話があるんだけど」

「まどかさん。今朝は顔色が優れませんわ。大丈夫ですの?」
「うん…。ちょっと寝不足でね」
翌朝の登校時、仁美の言葉にそう誤魔化すまどか。
「それにしても、今日もさやかさんはお休みかしら?」
事情を知らない仁美は、今朝もさやかがいない事にそう言う。
「後でお見舞いに行くべきでしょうか。…でも私なんかが行っていいのか…今ちょっと、さやかさんとはお話しづらいんですの」
と、どこか悲しそうに言う仁美。
「仁美ちゃん。あのね…」
まどかがなにかを言おうとした時だった。
(昨日の今日で、のんきに学校なんて行ってる場合かよ)
杏子のテレパシーが脳裏に響いた。
「あっ?」
「まどかさん?」
(ちょっと話があるんだ。顔貸してくれる?)
「……仁美ちゃん。ごめん。今日は私も…学校お休みするね」
「え?そんな、まどかさん、ちょっと」
仁美の言葉を背に、まどかは駆け出した。

人通りのない通り、そこで杏子とユウとリョウは待っていた。
「あの…話って」
「美樹さやか。助けたいと思わない?」
「助けられる…の?」
杏子の言葉にまどかは期待と不安の入り混じった声をあげる。
「わかんねーよ。でも、アタシはね。本当に助けられないのかどうかわかるまで諦めたくないんだ。馬鹿かと思うかもしれないけど」
そう言うと杏子は少し表情をやわらかくする。
「アイツは魔女になっちまったけど、友達の声ぐらいは覚えてるかもしれない。呼びかけたら、人間だった頃の記憶を取り戻すかもしれない。それができるとしたら、たぶん、アンタだ」
「うまくいくかな?」
「わかんねぇよそんなの」
まどかの言葉にそう言う杏子。
「でもわかんないからやるんだよ。もしかして、あの魔女を真っ二つにしてやったらさ、中からグリーフシードの代わりに、さやかのソウルジェムがポロッと落ちてくるとかさ。そういうもんじゃん?最後に愛と勇気が勝つストーリー、ってのは」
そう言うと、杏子はどこか穏やかな表情で空を見上げる。
「アタシだって、考えてみたらそういうのに憧れて魔法少女になったんだよね。すっかり忘れてたけど、さやかはそれを思い出させてくれた」
再びまどかに、真剣な表情で視線を戻す。
「付き合いきれねぇってんなら、無理強いはしない。結構、危ない橋を渡るわけだしね。アタシも、絶対何があっても守ってやる、なんて約束はできねぇし」
「ううん、手伝う。手伝わせてほしい。わたし、鹿目まどか」
そう言って手を差し出すまどか、
「ったくもう、調子狂うよな、ホント。佐倉杏子だ。よろしくね」
そう言うと、手の代わりにうんまい棒をまどかの手に握らせた。
「………?」
どこかドヤ顔の杏子に対して、まどかはきょとんとしていた。

「そういえば、九尾は?手伝ってくれないの」
ふと、メンバーにあの子狐の姿がないことに気づくまどか。
「………」
「あいつは、いねー。ちょっと訳ありでな」
ユウとリョウの表情になにかあった事に気づくまどか。
「ねえ、なにかあったの?」
「この件が終わったら、ゆっくり話すよ」
「……」
ユウの言葉に、まどかはそれ以上は聞かなかった。
「ほむらちゃんも、手伝ってくれないかな?」
今度はそんな事を言うまどか。
「アイツはそういうタマじゃないよ」
「友達じゃないの?」
杏子の言葉に小首を傾げる。
「違うね。アイツとは利害の一致っていうか。お互い一人じゃ倒せない奴と戦うためにつるんでるだけさ。あと何日かしたら、この街にワルプルギスの夜が来る」
「「ワルプルギス?」」
問い返すまどかとリョウ。
「超弩級の大物魔女だ。アタシもアイツも、たぶん一人じゃ倒せない。だから共同戦線っていうか、まあ要するにそういう仲なのさ」
と、足を止める杏子
「ここだな」
そう言って工事中のビルの出入り口を蹴り開ける。
「お前って、開ける時はいつもそうやるのか?」
以前の教会のドアを開けた時の事を思い出しながらそう言うリョウ。
だが杏子は無視して入る。
「ホントにさやかちゃんかな?他の魔女だったりしないかな?」
「おい、流石にそれはないじゃないか!」
まどかの言葉に叫ぶリョウ。
「魔力のパターンが昨日と一緒だ。間違いなくアイツだよ」
そう言うと、杏子はまどかとユウとリョウに向き直る。
「さて、改めて訊くけど、本当に覚悟はいいんだね?」
「何かもう、慣れっこだし。わたし、いつも後ろから付いてくばっかりで。役に立ったこと一度もないけど。でもお願い、連れて行って」
「俺もだ。……いる意味ない気がするけど、でも見届けたい」
「当たり前じゃないか!俺も少しは戦える。攻撃を払う役は多いほうがいいだろ?」
「……ホント変な奴だな、アンタたち」
返ってきた答えに苦笑する杏子だった。

「ねぇ、杏子ちゃん」
何枚ものなにかの公演のポスターが張られた通路を歩いていると、まどかが口を開いた。
「誰かにばっかり戦わせて、自分で何もしないわたしって、やっぱり、卑怯なのかな」
「何でアンタが魔法少女になるわけさ?」
不思議そうに聞く杏子。
「何でって…」
「ナメんなよ。この仕事はね、誰にだって務まるもんじゃない」
扉を開けながらそう言う杏子。
次の通路は両壁の窓に映像が映っており、まるで水族館の様だった。
奥からは不気味な演奏が聞こえてくる。
「でも」
「毎日美味いもん食って、幸せ家族に囲まれて、そんな何不自由ない暮らしをしてる奴がさ、ただの気まぐれで魔法少女になろうとするんなら、そんなのアタシが許さない。いの一番にぶっ潰してやるさ。命を危険に晒すってのはな、そうするしか他に仕方ない奴だけがやることさ。そうじゃない奴が首を突っ込むのはただのお遊びだ。おふざけだ」
「そうなのかな」
と言うまどかの隣で、「だから余計にさやかに突っかかったわけね」とため息をつくユウ。
「アンタだっていつかは、否が応でも命懸けで戦わなきゃならない時が来るかもしれない。その時になって考えればいいんだよ」
「うん」
杏子の言葉にまどかがうなずいた時、結界の最深部に通じる扉が見えてきた。
「いいな、打ち合わせ通りに」
「う、うん」
まどかの返事を確認すると、杏子は扉を開けた。
演奏が、はっきりと聞こえてくる。
そこはまるでコンサートホールだった。
周囲を取り囲むように無数の客席があり、ある一角ではバイオリンしかいない劇団が演奏していた。
その結界の中心で、下半身が魚で三つ目の髑髏のような兜の騎士の姿をした、魔女さやかはいた。
剣を指揮棒のように振り、演奏にあわせて体を揺らしている。
「さやかちゃん。私だよ。まどかだよ。ね、聞こえる?私の声がわかる?」
杏子が張った鎖による防御壁の中でさやかに声をかけるまどか。
だが、さやかーー魔女は無数の車輪を出現させてまどかに放つ。
「怯むな。呼び続けろ」
「アイツの攻撃は俺達がなんとかするからな!」
武器を構える杏子とリョウ。
「お前…剣…」
「あ?ああ、なくなった分軽くなったから問題ねえよ」
そう言って車輪を弾くリョウ。
だが、杏子と違い、一回弾くだけでかなりキツイのは見ていて明らかだった。
「さやかちゃん。やめて。お願い、思い出して。こんなこと、さやかちゃんだって嫌だったはずだよ。さやかちゃん、正義の味方になるんでしょ?ねえお願い、元のさやかちゃんに戻って!」
車輪に襲われる杏子とリョウの二人の姿に、
「聞き分けがねぇにも、程があるぜ、さやか!」
「まあ、それは元からだけどな!!」
と、車輪の一撃が杏子に当たる。
「杏子ちゃん!?」
「大丈夫、この程度、屁でもねぇ。アンタは呼び続けろ、さやかを」
まどかにそう言うと駆け出す杏子。
「やめて!もうやめて!さやかちゃん!わたしたちに気づいて!」
必死で叫ぶまどか。
その姿を見ていたユウは、ただ何も出来ない自分を不甲斐なく感じるだけだった。
(ハッ、いつぞやのお返しかい?そういえばアタシたち、最初は殺し合う仲だったっけね)
車輪の攻撃にさらされながらふと初めて会った時の事を思い出す杏子。
(生温いって、あの時アタシがもっとぶちのめしても、アンタは立ち上がってきたじゃんかよ)
うざいと思いつつも、同時に真っ直ぐに生きれる彼女をうらやましいと思った。
(怒ってんだろ?何もかも許せないんだろ?わかるよ…それで気が済んだら目ェ覚ましなよ、なぁ)
「さやか!!」
叫ぶ杏子に車輪が当たる。
その一撃のせいか、防御柵が消滅した。
「さやかちゃん…おねがいだから…」
懇願するまどかの目の前で、さらに無数の車輪が杏子を襲う。
「杏子ちゃん!!」
「……ん?」
だが、杏子にダメージはなかった。
「って、アンタ!?」
「大丈夫かーい?」
そう言ったのはリョウだった。
「なんで、あたしを庇って…」
「男が女を庇うのは当たり前だろ?……だが、ゴフ。結構きついな…よくあんなに食らったな」
口調は軽いが重症なのは明らかだった。
「リョウ!」
慌てて駆け寄ろうとするユウ。
と、そこへ魔女が腕を伸ばした。
「ーーっ!……鹿目!?」
だが、まどかが彼を突き飛ばし、代わりに魔女に捕まる。
「さや…ちゃ…」
「さやか!!」
杏子の一撃がまどかを掴む魔女の腕を斬り飛ばした。
「アンタ、信じてるって言ってたじゃないか!この力で、人を幸せにできるって」
ずっと持っているだけで、攻撃に使おうとしようとしなかった剣を魔女が振り下ろす。
「あぶねえ!」
その刃は杏子を突き飛ばしたリョウの身体と、コンサートホールの床を切り裂いた。
「リョウーー!!」
地面が砕け、全員落ちる。
「頼むよ神様、こんな人生だったんだ。せめて一度ぐらい、幸せな夢を見させてよ」
下のもう一つのコンサートホールに落ちる中、そんな事を思う杏子。
カランと音をたてて杏子の槍が落ちた。
「リョウ…生きてるか!?」
声のする方を見ると、ユウが倒れているリョウに駆け寄るところだった。
魔女は、演奏もせずただ立っているだけの、どこか上条恭介に似た使い魔にエールを送っていた。
杏子たちの事は眼中にない様子である。
「ああ、無事…とは言い難いがな」
そう言って起き上がるリョウ。
彼が重症なのは、誰の目にも明らかだった。
「…よう」
と、リョウはいつの間にかいた暁美ほむらに声をかける。
彼女の腕には、魔女に握られた時に気を失ったまどかが抱きかかえられていた。
「……響…リョウ」
「悪い…マイブラザーと鹿目を頼む」
「おい…なに言って…」
「落ち着けよ。マイブラザー。俺がもうダメなのは医者じゃなくたってわかるだろう?」
「俺を置いていくのかよ!俺を守ってくれると約束したお前が!!」
「あー、そんな約束したなぁ。確か中一の時だっけ?イジメられているお前を助けようとして一緒にボコられたんだよなあ…」
そう語るリョウの口調は変わらなかった。
いつもと、本当に変わらない。
「アンタ…」
「杏子。悪いな、マイブラ頼む。俺、ここまでだから」
「あたしを庇ったりしたからだろうが!なんでだ…あたしは魔法少女だぞ?」
「いや、冷静に考えろよ。ただ騒ぐだけの馬鹿な野郎キャラとかわいい魔法少女じゃ、どっちが生き残ったほうが世の為か。って、これじゃインキュ野郎みたいか…」
杏子にそう言うと、少しの間、天井を見上げる。
「ま、誰かがヤバイ時に助けるのが人間って、もんだろう?」
そう言うと剣を手にして立ち上がる。
と、彼の手に持つ剣から光が溢れる。
「ん?なんだ、こんな力があるなら最初から出してくれよと文句を言うしかないじゃないか」
魔法少女二人は息を呑む。
剣から溢れる力はかなり強力な魔力だったからだ。
「おい、リョウ…ふざけーー!!」
ユウの言葉がリョウの拳で途切れる。
倒れるユウを慌てて抱きとめる杏子。
「悪いな」
それはどちらに言った言葉だったのか。
「杏子…俺とさやかが守りたかったもの。頼めるか?」
「……ああ」
「行ってくれ。コイツは俺が引き受ける」
リョウの言葉に出口に向かって駆け出す杏子とほむら。
と言っても、杏子も重症であるためそれほど速度はないが。
「さて…」
二人がコンサートホールから出たのを確認すると、リョウは魔女を見上げる。
魔女も彼を見ていた。
「さっさと終わらせるか。実はさっきから意識が朦朧としているんだよな。まあ、痛みは通りこしたみたいだからなにも感じないけど」
そう言うと剣を構えるリョウ。
剣からは虹色の光が溢れる。
剣を構える魔女。
「心配すんなよ。せめて、最後ぐらい一緒にいてやるぜ。ダチだからな」
そう言うと、リョウは駆け出す。
彼の剣と魔女の剣がぶつかり、凄まじいエネルギーが両者を吹き飛ばしたのは次の瞬間だった。

「ーーん?」
『どうした?』
「いや、いま誰かに呼ばれた気が…」
『……わたしにはなにも聞こえなかった』
「……そう」
『誰か親しき者が死んだ時、よくそのような事を聞いたし、わたし自身経験もある』
「ちょっと、縁起でもないこと言わないでよ」

爆発で結界が揺れる。
その震動でユウは目覚めた。
「おい…リョウは!?」
「アイツは…」
「彼は魔女と相打ちになったわ」
どう言ったものか悩む杏子に代わり淡々と説明するほむら。
「……アイツが?嘘だ……」
呆然と呟くユウ。
そんな彼の姿を、居た堪れない想いで見る杏子。
と、爆発の影響か結界がいつもと全く違う崩壊の仕方をする。
「……この結界の中は危険だわ。早く脱出しないと…」
ほむらがそう言った時、震動が彼女たちを襲った。
「うわあ!」
震動でバランスを崩す杏子。
そのため、おぶっていたユウを落としてしまう。
と、ユウの腕がほむらの盾に触れる。
その時ーーカチン。というなにかが作動するような音がした。
だが、なんの音だったのか確認する前に、結界が崩壊した。

「う…ここは?」
ほむらは気がつくと、見滝原ないの墓地にいた。
すぐそばにまどかが倒れている。
だが杏子とユウの姿はどこにもなかった。
ふと、ある存在の気配を感じた。
「……佐倉杏子と響リョウには、本当に美樹さやかを救える望みがあったの?」
その存在に問い掛けるほむら。
『まさか、そんなの不可能に決まってるじゃないか』
そう答えるキュゥべえの口調には、馬鹿にしたものが感じられたのはほむらの気のせいか。
「なら、どうしてあの子を止めなかったの」
『もちろん、無駄な犠牲だったら止めただろうさ』
とある墓の上で説明するキュゥべえ。
『でも今回、彼女の脱落には、大きな意味があったからね。彼女が脱落すれば、これでもうワルプルギスの夜に立ち向かえる魔法少女は、君だけしか居なくなる。もちろん、一人では勝ち目なんてない』
そう言うと、キュゥべえは気を失っているまどかに視線を移す。
『この街を守るためには、まどかが魔法少女になるしかない訳だったんだけど、まさかあの少年がここまでやるとは思わなかったよ』
「そうね…わたしにも予想外だったわ」
だが、彼の犠牲でワルプルギスの夜を倒せる可能性が上がった事に、ほむらは内心感謝していた。
ただ、杏子がいまどこにいるのか…それはわからなかった。
それにあの如月ユウという少年も。
「無事…かしら?まあ、今回もダメでもまた繰り返せばいいだけだわ」

「う…」
杏子は起き上がる。
「あたし…」
辺りを見ると、見滝原の隣町のようだった。
何故こんな所にいるのかはわからない。だが、一つだけ言える事は、
「さやかを…救えなかった…リョウの奴を…犠牲にしたのに」
ふと、魔女の気配がする。
だが、どうでもよかった。
なんだか何もかもがどうでもよい気分だった。
気づけば杏子のソウルジェムも限界である。
と、ーーキンと音がした。
「ん?」
音のした方に視線を移すと、そこには以前ほむらがさやかに渡そうとし、リョウの頭に突き刺さったグリーフシードがあった。
なんだかんだでリョウから受け取るのを忘れていたので、彼がまだ持っていたはずだが…
「生きろ…って、言うのか?」
拾い上げる。
ーー俺とさやかが守りたかったもの。頼めるか
「まあ、約束しちまったからな」
フッと笑うと、ジェムを浄化し、魔女の気配の方を向く。
『ギシャア!!』
悲鳴をあげて消滅する魔女。
後には杏子と、呆然とした様子の幼い少女だけが残された。
彼女は目の前で両親を魔女に殺された。
「災難だったね。現実なんてこんなもんだ、震えたって死んだ両親は帰ってこないよ。生き残った幸運に感謝するんだな」
だが、少女は青い顔をしたまま動かない。
聞こえていないのかもしれない。
ふと共にワルプルギスの夜と戦う約束をしたほむらの顔が浮ぶ。
「足手まといを連れたまま戦わない主義だろ?いいんだよ、それが正解さ」
以前の自分ならしなかっただろう。
なにより今自分がしようとしている事は間違っている。
「ただ一つだけ、守りたいものを最後まで守り通せばいい。ハハハ、何だかなぁ。アタシだって今までずっとそうしてきたはずだったのに」
一人で呟き、苦笑する杏子。
「そんな顔したって誰も助ちゃくれないよ」
少女の前にキャンデーを差し出す。
「食うかい?」
そこで少女は初めて反応した。
「良かったら、一緒にいてやるよ。独りぼっちは、寂しいもんな」
そう言って杏子は微笑んだ。

ーー次回予告
かずみ「はい、これにてまどか編終了。次回からかずみ編が始まります」
海香「ちなみにリョウVS人魚の魔女以降の展開は、ライトを書いている時から考えていたそうよ。千歳ゆまとの出会いはこの貴石の契約者を書こうと思った時だそうだけど」
カオル「そのために九尾を退場させたんだよねー、アイツ死んでなければどんな怪我も治すから」
サキ「……なんで、そんな裏話的な事を言っているんだ?」
みらい「あとがきの代わりだって」
里美「……これ、予告よね?」
ニコ「気にしない方向で。では次回で」
ジュゥべえ「チャオ」
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

プロフィール

イノヨコウ

Author:イノヨコウ
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
FC2カウンター
プロフィール

イノヨコウ

Author:イノヨコウ
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
カテゴリ
リンク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。