貴石の契約者第8話

本当はだいぶ前に完成していたのですが…あげ忘れていました。




「ドロレス。ストロベリーカップ。銀世界。プリンセスダイアナ…えーと、あとなんだっけな?」
黒髪の少女が庭に咲くバラの名前を次々と言っていた。
「バラが好きなのね。もっとたくさん植えましょうか?キリカ」
そんな彼女にお茶の準備をしていた大人びた白い髪の少女が、感心した声で言った。
「へ?え?」
だがその言葉にキリカと呼ばれた少女は戸惑いの声をあげる。
「あら?どうしたの?」
白い髪の少女
「あれ?織莉子が好きなんじゃないの?バラ」
「お父様が好きだったのよ」
「へエ…」
織莉子と呼ばれた少女の言葉に、キリカはそう呟くと、
「それじゃあ、この情報は記憶から消しておくよ」
と言った。
「せっかく覚えたのにもったいないわ」
「イヤイヤ、もったいないのは私の頭の容量だよー」
そう言いながら頭を後ろに下げながら織莉子に近づくキリカ。
「私はきみ以外の情報なんていらないよ」
「キリカ、それはでは貴方は無知な子供になってしまうわよ?」
「きみはいつも私を子供扱いするんだ。たった、121日と3時間年上なだけでさ!」
織莉子の言葉にムッとしたのか、やや口調を荒げる。
「じゃあさ!「きみのお父様が好きなものならもっと知りたい」と、私はこう答えるべきだったの?」
「それは困るわ。私はお父様を尊敬しているのに、貴方がお父様に興味を持ったらお父様に嫉妬してしまうかもしれないわ」
そんなキリカとは対照的に、諭す様に語る織莉子だが、
「なんだい矛盾しているなぁ。織莉子のがワガママな子供じゃない?」
茶化すような言うキリカの言葉のすぐ後にキッと睨むような表情に変わる。
「うっ…えっええー!ヤダヤダ、怒らないでよ!きみに嫌われたら私は腐って果てるよ!」
織莉子が怒ったと思ったキリカは駄々をこねる子供のように織莉子の周りをグルグルと回っていたが、
「キリカ。そのまま動かないで」
織莉子の一言でピタリと動きと止めた。
その一瞬後に、強力な斬撃がキリカのすぐそばをる。
もしあのまま動いていたらこの一撃は確実にキリカに当たっていただろう。
「ああ!前から思ってたんだよね。この家にあるといいなってさ」
あと少しで死んでいたかも事実を知ってか知らずか、
「ブルジョアは鎧を置くのがしきたるばなんでしょー?」
暢気な口調で鎧の様な魔女を見上げてそう言うキリカ。
「初耳だわ…」
そんな彼女に流石に呆れる織莉子だった。
と、魔女が剣となっている腕を彼女たち振るう。
だがその一撃は彼女たちには当たっていない。
それどころかーー
「キリカ、紅茶にお砂糖は何個入れる?」
いつの間にか織莉子はイスに座っていた。
そんな暇はなかったはずだが。
「3個!あとジャムも3杯」
と黒い魔法少女服に身を包んだキリカが答える。
「まるでシロップを飲んでいるみたいね」
「あアッもうッ!!またそーやって子ども扱いするんだっ!織莉子なんか、織莉子なんか!!」
「嫌い?」
「だいっ好き!!」
そうキリカが大声で叫ぶと同時に、彼女の武器である爪が魔女をバラバラにした。
「私と織莉子のジャマうるんなんてとんだ間女だよ。ま、たいしたことなかったけどね!」
残った魔女の頭の上でそう言うキリカ。
「お見事だわキリカ。ただ…」
賞賛の言葉を言う織莉子だが、その顔はどこか困ったものだった。
その理由はーー
「紅茶が台無しになってしまったけど…」
キリカがバラバラにした魔女の剣の形をした腕がテーブルに直撃したからだった。
それを見て「うわああ~ん」と泣くキリカだった。
「もう、世話の焼ける子だわ…散々騒いで寝ちゃうんだもの」
泣きつかれて眠るキリカに膝枕をしながらそう呟く織莉子。
だが言葉とは裏腹に、その顔は楽しそうだった。
ふといまだ存在するキリカが倒した魔女の頭に視線を移すと、
「あと、やっぱりコレはいらないわ」
早く消えてくれないかしら。と呟いてもう一度キリカに視線を戻す。
本当に気持ちよさそうに眠っている。
その寝顔にクスっと笑う織莉子。
「キリカ、貴女がいなければ私はとっくに壊れていたでしょうね」
そう言って目を閉じる織莉子。
「私達はずっと…」
その時、彼女の頭の中にある光景が閃いた。
それは、近い将来起こりえる未来。
ーー破滅の未来。
「”アレ”に手を貸すものがいる…」
真剣な表情になる。
「御免なさいキリカ。貴女を使うわ」
いまだ眠り続けるキリカにそう言うと、
「あれだけはなんとしてでも止めないと…私と貴女の世界を守るために」
決意の表情でそう言う。

織莉子の家から少し離れた電柱の上に一人の少女がいた。
「魔法少女を直に襲う魔女か…面白い」
ダークグリーンのヒアデス星座を模した服の少女はそう言ってニヤリと笑う。
その手には、いつの間に手に入れたのか、先ほどキリカにバラバラにされた魔女の破片があった。
と、彼女の目の前に一冊の本が現れる。
表紙に金属製の金色の十字架のような飾りがついた、闇色だが所々キラキラと輝くその分厚い本は少女の目の前で独りでにぱかっと開く。
そして物凄い勢いでページをめくられる。
まるでホラー映画のような光景だが、少女は特に驚いた様子もなくその光景を見つめていた。
と、ある白紙のページを開いた時、本の動きが止まる。
「こいつも候補に入れておくか」
そう言うと、白紙のページに魔女の破片を押し当てる。
すると魔女の破片は驚いたことに白紙のページに飲み込まれていくではないか。
完全に破片が本の中に埋没すると、今度は破片の持ち主である魔女の絵とともにどこの国の言葉かはわからないが、文字が本に浮ぶ。
どうやら魔女の説明文らしい。
少女は満足気にうなずくと、本をパタンと閉じた。
「待っていろよ…かずみ」
そう言うと少女は、とある町がある方向に視線を向けたのだった。
「ウン、美味しい♪」
そのとある町で、料理をする一人の少女。
「ユウ~、お皿並べるの手伝って~。カオルは海香を呼んで来て~」
「了解した~」
「わかったよ~」
この少女が物語りに関わるのは、まだまだ先である。

魔法少女まどか・かずみ☆マギカ - 貴石の契約者・まどか編

  第8話 本当の気持ちと向き合えますか

「騙してたのね。私達を」
『僕は魔法少女になってくれって、きちんとお願いしたはずだよ?実際の姿がどういうものか、説明を省略したけれど』
さやかの言葉に、いつもと変わらない口調で答えるキュゥべえ。
「何で教えてくれなかったのよ!」
『訊かれなかったからさ。知らなければ知らないままで、何の不都合もないからね。事実、あのマミでさえ最後まで気づかなかった』
激昂の言葉にキュゥべえは平然と答える。
『そもそも君たち人間は、魂の存在なんて、最初から自覚できてないんだろう?そのくせ、生命が維持できなくなると、人間は精神まで消滅してしまう。そうならないよう、僕は君たちの魂を実体化し、手に取ってきちんと守れる形にしてあげた。少しでも安全に魔女と戦えるようにね』
「大きなお世話よ!そんな余計な事!」
『君は戦いという物を甘く考え過ぎだよ』
さやかの言葉にキュゥべえはやれやれと言った様子でぴょんと机に飛び乗り、そこに置かれていたさやかのソウルジェムに前足をかけると、
『例えば、お腹に槍が刺さった場合、肉体の痛覚がどれだけの刺激を受けるかって言うとね』
と言ってソウルジェムをした。
「ぐっ…!」
『これが本来の痛みだよ。ただの一発でも、動けやしないだろう?』
激痛に倒れるさやかに語るキュゥべえ。
その平然とした姿は、まるで悪魔のようにさやかには感じられた。
『君が杏子との戦いで最後まで立っていられたのは、強過ぎる苦痛がセーブされていたからさ。君の意識が肉体と直結していないからこそ可能なことだ。おかげで君は、あの戦闘を生き延びることができた』
苦痛にゆがむさやかの顔を見下ろすキュゥべえ。
『慣れてくれば、完全に痛みを遮断することもできるよ。もっとも、それはそれで動きが鈍るから、あまりオススメはしないけど』
「何でよ。どうして私達をこんな目に…!」
ようやく声が出せるようになったさやかは、キュゥべえに問い掛ける。
『戦いの運命を受け入れてまで、君には叶えたい望みがあったんだろう?それは間違いなく実現したじゃないか』
答えは、やはりいつもと変わらな口調だった。

「ほむらちゃんは…知ってたの?」
屋上でほむらに問い掛けるまどか。
「どうして教えてくれなかったの?」
「前もって話しても、信じてくれた人は今まで一人もいなかったわ」
悲しそうなまどかはとは対象的に、ほむらの声には感情を感じさせなかった。
「キュゥべえはどうしてこんなひどいことをするの?」
「あいつは酷いとさえ思っていない。人間の価値観が通用しない生き物だから」
まどかの問いに静かに答えるほむら。
「何もかも奇跡の正当な対価だと、そう言い張るだけよ」
「全然釣り合ってないよ。あんな体にされちゃうなんて。さやかちゃんはただ、好きな人の怪我を治したかっただけなのに」
この日、さやかは学校を休んでいる。
「奇跡であることに違いはないわ。不可能を可能にしたんだから。美樹さやかが一生を費やして介護しても、あの少年が再び演奏できるようになる日は来なかった」
ほむらはそう言うと、でもねえ。と続ける。
「奇跡はね、本当なら人の命でさえ購えるものじゃないのよ。それを売って歩いているのがあいつ」
「さやかちゃんは、元の暮らしには戻れないの?魔法さえ使わなければ、大丈夫だよね?」
すがるようなまどかだが、
「無理よ。魔法を使わない普通の生活をしているだけでも。このソウルジェムは濁っていく前にも言ったわよね。美樹さやかのことは諦めてって」
ほむらは冷たく切り捨てた。
「さやかちゃんは私を助けてくれたの、さやかちゃんが魔法少女じゃなかったら、あの時、私も仁美ちゃんも死んでたの」
消え入るような声で呟くまどか。
「感謝と責任を混同しては駄目よ。貴女には彼女を救う手立てなんてない」
そんなまどかにそう言うほむら。
「引け目を感じたくないからって、借りを返そうだなんて、そんな出過ぎた考えは捨てなさい」
「ほむらちゃん、どうしていつも冷たいの?」
まどかの言葉にほむらは空を見上げると、
「そうね……きっともう人間じゃないから、かもね」
と言った。

「なにを会話しているのか…」
屋上の出入り口にてまどかとほむらを見つめるユウ。
「どうしよう…なあ」
と、相方に声をかけるが、何故か反応がない。
ん?と思って振り向くと、
『マイブラザーへ。美樹のところに行ってきます。先攻には早退したって言っておいて』
テヘペロ的ならくがきととにそう書かれた紙が張ってあった。
「……………えぇーー」

自分の部屋
布団の中でソウルジェムーー自身の魂を見つめるさやか。
「こんな身体になっちゃって…私、どんな顔して恭介に会えばいいのかな」
ぽつりと呟く。
無論答えなどなかった。
(いつまでもショボくれてんじゃねえぞ、ボンクラ)
「ーー!」
だが声をかける者はいた。
慌てて起き上がって窓の外を見た、杏子がそこにいた。
「ミッキティいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
が、次の瞬間。物凄い勢いで走ってきたリョウに突き飛ばされた。
「おお、ミキティ。思ったより元気そうでなによりだ。あっはっはっ」
「あっはっはっ。じゃねえ!なにしやがる!!」
「気にするな桜アンコ。」
「誰が桜アンコだ!!」
リョウをしばき倒した杏子はさやかの方を向く。
「ちょいと面貸しな。話がある」

「あの子がマミさんと?」
「名前聞いた時どこかで聞いた事あると思っていたんだけど、前に巴先輩がさやかの願いの話で、「恩人になりたいのか、その人のことを助けたいのか。同じようでも全然違うこと」って、言っていただろ?それが気になって聞いてみたんだ」
まどかの言葉にうなずくユウ。
「その時に話してくれ昔一緒にいた魔法少女の名前が佐倉杏子のだった」
この前は思い出さなかったけど。
そう言うとユウは笑う。
「彼女は一種の師弟関係だったそうだ。あの佐倉杏子も先輩に憧れていたらしい」
「それがどうして?」
初めて会った時の印象では、とてもマミさんと一緒にいたとは思えない。
「いや、詳しく聞いたわけじゃないんだけど…」

「アンタさぁ、やっぱり後悔してるの?こんな体にされちゃったこと」
道中さやかにそう問い掛ける杏子。
「アタシはさぁ、まあいっかって思ってるんだ。何だかんだでこの力を手に入れたから好き勝手できてるわけだし。後悔するほどのことでもないってね」
「あんたは自業自得なだけでしょ」
杏子の言葉に唸るように言うさやか。
「そうだよ、自業自得にしちゃえばいいのさ」
だが杏子はあっけらかんとした口調で答えた。
「自分のためだけに生きてれば、何もかも自分のせいだ、誰を恨むこともないし、後悔なんてあるわけがない。そう思えば大抵のことは背負えるもんさ」
「う~む、この前殺そうとした相手に美樹の奴を任せて大丈夫なのか…」
と、二人の背後を歩くリョウが難しい顔でそう呟く。
『まあ、アンタが慰めるより同じ境遇の者の方が効果的と思うコンよ。ここは黙って見守るべきコン』
頭の上に乗る妖怪がそんな事を言う。
そうこうするうちに目的地らしい場所についた。
そこは教会だが、外から見ただけで長年使われていないのは明白だった。
扉にも鍵が掛かっている。
が、杏子がその扉を蹴り倒した。
「乱暴だと驚くしかないじゃないか」
「こんな所まで連れて来て、何の用なの?」
教会に入ったさやかは開口一番にそう言った。
外の様子から想像したとおり、中は埃まみれな上に所々ボロボロだった。
ステンドグラスも所々割れている。
ちなみにさやかの言うこんな所とはこの教会が見滝原市ではなく隣の風見野市だからである。
ここまでの移動手段は徒歩。
「ちょっとばかり長い話になる」
そう言うと杏子は、
「食うかい?」
さやかにリンゴを投げ渡す。
だが受け取ったさやかはリンゴを放り投げた。
放り投げられたリンゴは狙い違わずリョウの頭に。
「なんでぃふう!?」
『ああ、なんて事を!』
慌てて九尾はリョウに……ではなく彼に当たって床に落ちたリンゴに駆け寄る。
『もったいないお化けが出るコンよ!』
リンゴをふさふさの尻尾で磨きながらそう言って九尾がさやかに視線を移すと、彼女は杏子に宙に浮くほどの力で胸倉をつかまれていた。
「食い物を粗末にするんじゃねえ、殺すぞ」
『なにやっているコン!!いくらなんでもやりすぎコンよ!!ブレイク!ブレイク!ワン、ツー!』
九尾が慌てて制止に入ったことで、はっと気づいたようにさやかを放した。
咳き込むさやかを少しバツが悪そうに見ていた杏子は、
「ここはね、アタシの親父の教会だった。正直過ぎて、優し過ぎる人だった。毎朝新聞を読む度に涙を浮かべて、真剣に悩んでるような人でさ」
話始めた。
「新しい時代を救うには、新しい信仰が必要だって、それが親父の言い分だった。だからある時、教義にないことまで信者に説教するようになった」
天井を仰ぐ杏子。
「もちろん、信者の足はパッタリ途絶えたよ。本部からも破門された。誰も親父の話を聞こうとしなかった」
そう言って肩をすくめた。
「当然だよね。傍から見れば胡散臭い新興宗教さ。どんなに正しいこと、当たり前のことを話そうとしても、世間じゃただの鼻つまみ者さ。アタシたちは一家揃って、食う物にも事欠く有様だった」
当時の事を思い出したのか、ぐっと拳を握る杏子。
「納得できなかったよ。親父は間違ったことなんて言ってなかった。ただ、人と違うことを話しただけだ。5分でいい、ちゃんと耳を傾けてくれれば、正しいこと言ってるって誰にでもわかったはずなんだ」
『まあ、仕方ないコンよ。正しい事を言ったからと言って、みんなが受けて入れてくれるとは限らないコン。むしろ大勢と違う事を言っている存在を否定してしまうのが大多数コン』
「ああ、でもあたしは誰も相手をしてくれないことが悔しかった、許せなかった。誰もあの人のことわかってくれないのが、アタシには我慢できなかった」
九尾の言葉にうなずくと杏子は握った拳にさらに力を込める。
「だから、キュゥべえに頼んだんだよ。みんなが親父の話を、真面目に聞いてくれますように、って」
「アンタ…」
杏子はフッと笑って言葉を続ける。
「翌朝には、親父の教会は押しかける人でごった返していたよ。毎日おっかなくなるほどの勢いで信者は増えていった。アタシはアタシで、晴れて魔法少女の仲間入りさ。いくら親父の説法が正しくったって、それで魔女が退治できるわけじゃない。だからそこはアタシの出番だって、バカみたいに意気込んでいたよ」
そう語る杏子の顔は、どこか誇らしげで、そして悲しげだった。
「アタシと親父で、表と裏からこの世界を救うんだって」

「そんな時にマミさんと出会った?」
「そう。そして仲良くなった。佐倉杏子は巴先輩に弟子にしてくれって頼んだらしい」
まどかの言葉にうなずくユウ。
「でも、それなら余計にわからない。どうして使い魔は放っておこうなんていう子になっちゃたんだろう?」
「それはーー」

「ある時、カラクリが親父にバレた」
「「『ーー!!』」」
半ば予想していたとはいえ、杏子の口から改めて出た言葉に絶句するさやかたち。
「大勢の信者が、ただ信仰のためじゃなく、魔法の力で集まってきたんだと知った時、親父はブチ切れたよ」
「「『………』」」
なんと言っていいのかわからず、無言で杏子を見詰めるさやかたち。
「娘のアタシを、人の心を惑わす魔女だって罵った。笑っちゃうよね。アタシは毎晩、本物の魔女と戦い続けてたってのに」
そんな視線を受けながら、杏子は自嘲気味に笑う。
「それで親父は壊れちまった。酒に溺れて、頭がイカれて。とうとう家族を道連れに、無理心中さ。…アタシ一人を、置き去りにしてね。--アタシの祈りが、家族を壊しちまったんだ」
「「『………』」」
「他人の都合を知りもせず、勝手な願いごとをしたせいで、結局誰もが不幸になった。その時心に誓ったんだよ。もう二度と他人のために魔法を使ったりしない、この力は、全て自分のためだけに使い切るって」
そこで杏子はふう、と息を吐いた。
「奇跡ってのはタダじゃないんだ。希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。そうやって差し引きをゼロにして、世の中のバランスは成り立ってるんだよ」
「何でそんな話を私に…?」
疑問を口にするさやか。
「アンタも開き直って好き勝手にやればいい。自業自得の人生をさ」
「それって変じゃない?あんたは自分のことだけ考えて生きてるはずなのに、私の心配なんかしてくれるわけ?」
「アンタもアタシと同じ間違いから始まった。これ以上後悔するような生き方を続けるべきじゃない」
「同病哀れむって奴か?」
『それを言うなら同病相憐れむコンよ。ちなみに意味は同じ苦しみや悲しみをもの同士で互いにいたわるコン』
リョウの言い間違いを訂正する九尾。
ご丁寧に意味までつけて。
「まあ、そんなところかな。アンタはもう対価としては高過ぎるもんを支払っちまってるんだ。だからさ、これからは釣り銭を取り戻すことを考えなよ」
「あんたみたいに?」
「そうさ。アタシはそれを弁えてるが、アンタは今も間違い続けてる。見てられないんだよ、そいつが」
「あんたの事、色々と誤解してた。その事はごめん。謝るよ」
そう言うさやかだが、
「でもね、私は人の為に祈った事を後悔してない。そのキモチを嘘にしない為に、後悔だけはしないって決めたの。これからも」
だが譲れない自分の意思をはっきりと口にする。
「何でアンタ…」
「私はね、高すぎるものを支払ったなんて思ってない。この力は、使い方次第でいくらでもすばらしいモノに出来るはずだから」
「前向きだな」
「おうよ」
リョウの言葉にうなずくと、さやかはすっと杏子のリンゴを指差し、
「それからさ、あんた。そのリンゴはどうやって手に入れたの?お店で払ったお金はどうしたの?」
「…ッ」
言葉に詰まる杏子。
「言えないんだね。なら、私、そのリンゴは食べられない。貰っても嬉しくない」
そう言うとさ杏子に背を向ける。
「バカ野郎!アタシたちは魔法少女なんだぞ?他に同類なんていないんだぞ!?」
「私は私のやり方で戦い続けるよ。それがあんたの邪魔になるなら、前みたいに殺しに来ればいい。私は負けないし、もう恨んだりもしないよ」
杏子の言葉にそう答え、さやか教会から出て行った。
その後、リョウがぺこりと頭を下げて出て行く。
そして九尾も、
『あ、コンはもらっていくコンよ』
と言ってしっかりと先ほどさやかが投げ捨てたリンゴを持って出て行った。
「………!」
残された杏子はイラだった顔でリンゴにかじりついた。

翌日、いつもの待ち合わせ場所にさやかはやってきた。
「…さやかちゃん、おはよう」
「おはようございます、さやかさん」
「あ、ああ。おはよう」
まどかと仁美の挨拶に元気なく返すさやか。
「昨日はどうかしたんですの?」
「あ~、ちょっとばかり風邪っぽくてね」
仁美の問いにあはは、と笑うさやか。
「さやかちゃん…」
(大丈夫だよ。もう平気。心配いらないから)
心配そうに見つめるまどかに、テレパシーでそう言う。
「さーて、今日も張り切って…」
「あら…上条君、退院なさったんですの?」
と、仁美が松葉杖で歩く上条恭介の姿を見つける。
「上条、もう怪我はいいのかよ?」
中沢が恭介に声をかけた。
「ああ。家にこもってたんじゃ、リハビリにならないしね。来週までに松葉杖なしで歩くのが目標なんだ」
「OH、見てみろマイブラザー!がんばっているじゃないか。かみやん」
「………そうだな」
恭介の言葉に通りがかりのリョウとユウはそう言うと、チラリとまどか達を、いや、さやかを見た。
「………よかったね。上条君」
「うん」
まどかの言葉に、気のない返事をするさやか。
「さやかちゃんも行ってきなよ。まだ声かけてないんでしょ?」
「私は…いいよ」
「………」
そんなさやかを、仁美は意味ありげにジッと見つめているのだった。

いつものファーストフード店に、さやかは仁美に呼び出された。
ここでまどかの夢の話を聞いたのが、さやかには遠い昔のことのよう思えた。
「それで…話って何?」
とりあえず、話を切り出す。
「恋の相談ですわ」
「え?」
予想外の言葉に戸惑うさやか。
「私、前からさやかさんやまどかさんに秘密にしてきたことがあるんです」
そう切り出すと、彼女は一気に本題を言った。
「ずっと前から…私…上条恭介君のこと、お慕いしてましたの」
「ーー!」
その言葉に、さやかの心の奥になにかがズドンと芽生える。
「そ、そうなんだ…」
そう呟くと、
「あはは…まさか仁美がねえ…。あ、なーんだ、恭介の奴、隅に置けないなあ」
なんとかいつも通りの口調で言おうとするさやか。
しかし所々無理があった。
「さやかさんは、上条君とは幼馴染でしたわね」
「あーまあ、その。腐れ縁って言うか何て言うか」
「本当にそれだけ?」
「うっ…」
仁美の言葉にすぐに詰まった。
「私、決めたんですの。もう自分に嘘はつかないって」
うろたえるさやかとは対照的に静かに迷いなく言う仁美。
「あなたはどうですか?さやかさん。あなた自身の本当の気持ちと向き合えますか?」
「な、何の話をしてるのさ」
「あなたは私の大切なお友達ですわ。だから、抜け駆けも横取りするようなこともしたくないんですの」
さやかの目を真っ直ぐに、迷いなく見つめる仁美。
「上条君のことを見つめていた時間は、私よりさやかさんの方が上ですわ」
そこには、確固たる決意があった。
「だから、あなたには私の先を越す権利があるべきです」
「仁美…」
「私、明日の放課後に上条君に告白します。丸一日だけお待ちしますわ。さやかさんは後悔なさらないよう決めてください。上条君に気持ちを伝えるべきかどうか」
そう言うと仁美はさやかに一礼をして立ち去っていった。
「あ、あたしは…」
1人残されたさやかは、呆然と呟くのだった。
「聞いてしまった…」
『聞いてしまったコン…』
そして、そんな彼女を見つめる馬鹿が二匹。
言うまでもなくリョウと九尾である。
いつもの通りさやかをつけていたら(一応心配しての行動なのでストーカーとは言わないであげて欲しい)聞いてしまったのである。
『なという最悪のタイミングで…ついこの間とんでもないことをカミングアウトされたばかりだというコンに…』
オロオロする九尾。
「やべえぞ。このままでは美樹のやつ、フォースの暗黒面に堕ちてしまうかもしれない」
同じくオロオロするリョウ。
というか、なんでフォース。
「どうするんだよ、オイ。俺こういうシリアスな雰囲気苦手なんすよ。なんてたって騒ぐしか能のないギャグキャラでしかねえもん」
『コンだって、場を引っ掻き回すだけのカオスキャラですよ!?』
「それはそれでこの状況に適しているような…あと語尾忘れているぞ」
『ハッ!?』
「しかし………な~んか、取り返しのつかないやばいことが起こる気がする」
そう言いと、いまだ呆然とするさやかをもう一度見るリョウ。
「なんとかしなくちゃダメだよな…やっぱ……」

魔女退治に出かけるためにさやかが外に出ると、まどかがいた。
「まどか…」
「付いてっていいかな?」
彼女だけではなく、ユウとリョウと九尾もいる。
「さやかちゃんに一人ぼっちになってほしくないの。だから」
「あんた、何で?何でそんなに優しいかな?あたしにはそんな価値なんてないのに」
まどかの言葉に涙を流すさやか。
「あたしね、今日後悔しそうになっちゃった。あの時、仁美を助けなければって。ほんの一瞬だけ思っちゃった。正義の味方失格だよ…。マミさんに顔向け出来ない」
ぎゅっと抱き合うまどかとさやか。
「仁美に恭介を取られちゃうよ…。でも私、何も出来ない。だって私、もう死んでるもん。ゾンビだもん。こんな身体で抱き締めてなんて言えない。キスしてなんて言えないよ…」
「美樹…」
「……」
『コン』
涙を流すさやかの姿になんとも言えない気持ちになるユウ、リョウ、九尾。
と、さやかが顔を上げる。
「ありがと。ごめんね」
「さやかちゃん…」
「もう大丈夫。スッキリしたから。さあ、行こう。今夜も魔女をやっつけないと」
「………うん」

とある工場地帯。
そこに発生した魔女の結界を見下ろせる位置に、杏子はいた。
「黙って見てるだけなんて、意外だわ」
そんな彼女に暁美ほむらが声をかける。
「今日のアイツは使い魔じゃなくて魔女と戦ってる。ちゃんとグリーフシードも落とすだろ。無駄な狩りじゃないよ」
「そんな理由で貴女が獲物を譲るなんてね」
「フン!……ん?チッ、あのバカ、手こずりやがって」
と、結界の様子を見ていた杏子は舌打つ。

「はあ…はあ…」
魔女と対峙するさやか。
その後ろでまどかとユウ。そしてその二人を守るため九尾の鎧を身に着けたリョウが彼女を見守っていた。
息を整えたさやかは、一気に魔女に近づく。
だが、地面から動物の顔をしたヘビのようながついた魔女の手下が出てきてさやかに襲い掛かる。
次々と斬り捨てるが、数が多く捌ききれずにさやかは一度上に跳びあがる。
跳び上がったさやかは魔法陣を展開してそれを足場にして一気に魔女に迫る。
使い魔は反応しきれていない。取った!と思ったが魔女から巨大な木のようなものが生え、さやかを飲み込んだ。
「さやかちゃん!」
まどかが叫び、
「クソ!」
リョウが駆け出そうとした時、魔女の体をバラバラになり、さやかを抱えた杏子が現れる。
「まったく。見てらんねぇっつうの。いいからもうすっこんでなよ。手本を見せてやるからさ」
そう言って身構える杏子だが、
「オイッ!」
「邪魔しないで。一人でやれるわ」
さやかが魔女に向かって駆け出した。
「さやかちゃん!?」
次々と使い魔や魔女の攻撃にボロボロになるさやか。
だが止まるどころかさらに速度を上げる。
「アンタ、まさか…」
歴戦の魔法少女である杏子はすぐに感づく。
いくらなんでも攻撃を受ければ痛い。
そして痛みを受ければ、誰だって怯むはずである。
だがさやかにはその様子がまるでない。
ーーつまり。彼女は…
「あははは!!ホントだぁ…。」
血まみれになりながら魔女に刃を叩き込む。
「その気になれば、痛みなんてぇ~」
とても楽しそうに。
「…あはは。完全に消しちゃえるんだぁあ!!」
そして、とても痛そうに。
「あははははははははは!!」
額から流れる血は、彼女の心の涙にも見えた。
「さやかちゃん…もうやめて」

ーー次回予告
リョウ「薔薇と言われてビオランテを連想するのは俺だけだろうか?」
さやか「最近の中学生って、ビオランテ知っているわけ?」
ユウ「ビオランテって、人気あるらしいな。書き手の友人が一番大好きな怪獣だった。つか、なんで薔薇?」
九尾『冒頭の部分じゃないコンか?ちなみにビオランテのソフビにはなんかプレミアがついているって話コン』
まどか「ごめん、話についていけない」
ユウ「ちなみに自分は薔薇といえばブラックローズドラゴンかな」
まどか「ぶらっくろーずどらごん?」
リョウ「あー、確かにあるな」
さやか「でも全体除去能力ならデミスとか裁きの龍とかの方が上だけどね」
まどか「でみ…?ジャッジメント?」
九尾『いや、全体除去能力といえば一番強烈なのは混沌帝龍コンよ』
さやか・ユウ・リョウ「「「あー、確かに」」」
まどか「???」

第9話、あたしって、ほんとバカ

ほむら「混沌帝龍って、スターライトロードが効かないから厄介なのよね」
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